アジアの麵の歴史と伝播

名称の分布からみる麵の起源

アジアの麵の歴史を考えるうえで、最も基本的な問題は、麵という食品が中国に起源したものであるか、どうか、ということにある。アジア各地の麵を調査した結果からは、麵は中国に起源する食品であると断言できると考えている。アジア各国の麵類の名称と中国語との関係をみてみても、麵のふるさとは中国であるといえそうである。

漢字 カナ表記名称
メン ソウメン ラーメン(日本)、ミョン ネンミョン(朝鮮半島)、メントール・メンティアオ ゴエモン ゴワメン(モンゴル)、ラグマン(ウズベキスタン、ウイグル、タジク、キルギス、トルクメン、カルカラバク族)、メンチ メンチッチ(チベット)、ミー(ベトナム)、バー・ミー(タイ)、ミー ワン・トン・ミー イー・フー・ミー ミー・スア(マレーシア)、ミー バーミー(インドネシア)
米粉 ビーフン(マレーシア、インドネシア)、ビーホン(フィリピン)
河粉 フォー(北ベトナム)、ホー・フン(マレーシア)
粿条 フー・テイヨウ(南ベトナム)、クオイ・ティオ(タイ)、クイチェウ(カンボジア)、クオイ・チャオ(マレーシア)

 
文明論としての麵食
 
中国文明をささえた経済的基盤は、おおきく南北ふたつの類型にわけられる。新石器時代以来、アワ、キビなどの雑穀を栽培してきた農業に西方から導入されたコムギ耕作がくわわったのが中国の北側の類型である。南側はコメの粒食を主食としてきた。麵は粉食をする華北平野の生みだした食品である。つまり、麵をふくむコムギ粉食品は北の食べ物として発展してきたといえる。南宋時代に首都が南方の浙江省に移ったことで、南でも麵食の習慣が普及するようになる。また、北からやってきた麵の影響をうけて、南ではコメから麵をつくる技術が開発されたと推測できる。のちに、この技術はコムギの生産のできない東南アジアに伝播していく。
 
中国に起源する麵食が普及していくに際しては、食事文化における中国文明の影響がおおきくかかわっているといえるだろう。食事において中国文明の影響をしめすものは、箸と碗である。中国では、古代から主食や汁物を個人別の食器である碗にいれる食べる習慣があり、碗と箸はセットをなす食器であった。このような食事用具を使用する文明において、汁気たっぷりの麵料理が成立したのである。中国文明とインド文明のはざまにある東南アジアは,歴史的にこれらふたつの巨大文明の影響をうけてきた。東南アジアのなかで、ベトナムだけが伝統的に箸を使用し、料理技術も中国料理にちかいものになっているが、近代になってからの華僑の進出により、東南アジア全域にわたり中国の食事文化の影響をうけるようになった。清末の華僑の流出が、箸と碗の文化圏をこえて、麵食が普及をもたらしたのである。この中国の食事文化の影響を象徴するものが、東南アジアの台所で普遍的にみられる中華鍋であり、外食における麵食である。
アジアの麵の歴史と伝播